ポンキンカンも今は昔の物語

 ここ数年、私立大学の入学定員管理が厳しくなり、今春の入試の場合、定員の1.1倍を超える学生を入学させると補助金がカットされるとかで、東京や大阪の偏差値上位大学の一般入試の合格者数が絞られたようだ。その結果、東京圏でいえば早慶上理→GMARCH→日東駒専→大東亜帝国、大阪圏でいえば関関同立→産近甲龍→摂神追桃というように(以上は巷間言われている偏差値順位であって、筆者は信用していないが)、偏差値上位校から下位校へ合格者が押し出されたと言われている。簡単に言えば、以前なら合格できたのに今年は合格できなかったというのである。確かに、この傾向は2,3年前から生徒を指導していて筆者も実感していた。

 ただ、これはあくまで一般入試の話である。実は、今では、私立大学の入学者の6割は公募推薦だの指定校推薦だのといった推薦入試やAO入試などという、事実上ほとんど学力試験を受けていない生徒なのであって、残りの4割だけが一応学力試験を受けているに過ぎないのである(有名な慶応大学などの場合、学部によると一般入試組は3割だそうである)。

 そのような中で、入学定員管理の厳格化がすすめられるとどうなるか。ランク上位校は放っておいても入学偏差値が異様なほどに吊り上がってくれて受験者数が増え受験料で稼げるからホクホクである。一方で、学生集めに苦労している下位校は、もっとホクホクである。何せ、私立大学の約半数は定員割れで苦しんでいいるところに、上位校から勝手に生徒が流れてきてくれるのだから。特に、いわゆるFラン大学ばかりの地方私立大学の場合、以前なら都市部の大学に合格できたであろう生徒達が、涙を呑んで流れてきてくれるのである。こんなおいしい話はない。まさに「地方創生は大学から」なのである。このようにして無駄に粗製乱造した多くの私立大学を護送船団方式で食わせていき、そこに文部官僚が天下って高給を食むという、実によくできたストーリーなのである。

 ただ、唯一の被害者がいることを、関係者は知っていながら無視している。それは、もちろん以前なら東京、大阪のそれなりの大学に合格できたであろう生徒達である。一応の有名大学卒になれたはずが、彼らはFラン大学卒→非正規一直線になるのである。一方で、6割の推薦やAOなどという怪しい入試で合格していった学生は、当該有名大学卒を名乗れるというこの不合理。どんな制度も一長一短ではあるものの、このような制度(ちゃんとした学力試験をやらずに生徒を入学させてアホ大学生を大量生産する制度)を作って運用していることを、今の大人達は将来の日本を背負う彼らに責任をとれるのだろうか。

 ちなみに、1973年以前の入学定員管理の基準は、7倍だったという。筆者が、大学受験をしたのが1972年であるから、ちょうどそのころまでの私立大学に合格していた生徒の7人のうちの6人は、今なら不合格だったわけである。そういえば、当時は、受験すれば誰でも合格できる大学のことを揶揄して、ポンキンカン(近所の婆さんの言葉を借りれば「校門の辺りでにこにこ笑いよったら入れてくれる大学」)と呼んでいた記憶があるが、今やポンキンカンも高嶺の花である。親がポンキンカン卒だからといって、その子はとてもポンキンカンにすら入れない時代なのである。

ポンキンカン 今は高嶺の ポンキンカン

2018.4.8