医学部合格の方法

  最近、当塾への問合せで多いのは、子供を医師にしたいのだが、どうすればよいかという相談である。我が子3人を国立大学医学部医学科へ進学させた塾長夫婦からすれば、子供のことを他人に相談する前に、親自身が今から述べる医学部受験生の親たるに相応しいものをもっているかを考えたほうがいいと思うのだが、勘違いな親に限って色々と聞いてくるものである。いちいち答えるのも面倒なので、以下に医学部合格のための提要を書くことにする。

  結論から言おう。カネかコネかアタマである。

 

 1 私立医科大

  これは、はっきり言って、アタマではない。カネかコネか、その両方である。よく考えてみればわかるのだが、私立医科大は、大学ではあるが、何より私企業である。私立医科大に合格させるということは、近い将来、自分の病院で医師として働かせることになる者を採用予約しているようなものである。

   一般に、私企業が新入社員の採用試験を勉強だけで公平にやっているところなど、日本中のどこを探してもないだろう。ほとんどは、コネ採用である。コネ採用ではどうしても足らない場合のみが、一般試験による採用である。

 私立医科大も基本的には同じなのである。コネである。ただ、一般の会社と異なるのは、新入社員に当たる医師国家試験合格者の養成だけでなく、大学病院の経営に莫大な金がかかることである。カネ(寄付金)である。つまり、大学が欲しいのは、コネがあってカネがある生徒である。カネの額はコネとの関連で決まっていく。強いコネをもつ生徒は、カネは比較的少なくてよい。コネがない生徒は、数億必要と考えたほうがよい。

  とは言いながら、私立医科大も大学である。国からの補助金(私立学校振興助成金)も欲しい。そのためには、一応公平な入試を実施している体裁は整えなければならない。だから、一般入試を行う。一般入試は定員の何十倍もの生徒が受験してくれるので、受験料収入も魅力である。一般入試といっても、他の私大学部と違って、医学部入試には「面接」というものがあるから、コネ・カネが活躍できる。面接でもどうしてもひっくり返すことができないほどの学力試験の上位者には、カネにはならないが仕方なく一応合格は打つ。でも、大丈夫である。彼らは、国公立大学医学部医学科のすべり止めで私立医科大を受けているだけだから、ほとんどは、入学を辞退する。補欠合格を打っておいたコネ・カネ受験者を優先繰り上げすればよいだけである。

  以上が、私立医科大入試の実態である。こんな不公平はけしからん、補助金を止めろなどと批判することは、簡単である。しかし、毎年の医師国家試験合格者の4割近くを生産している私立医科大の経営が傾いて困るのは、結局国民なのだから、不公平も仕方ないと諦めるしかないのだろう。一般国民ができることは、私立医科大卒のやぶ医者には、できるだけかからないことくらいだろう。

 

2 国公立医大

  国公立医学部医学科の場合は、推薦入試はコネ、一般入試はアタマである。

  もともと、税金で設立・運営している国公立大学医学部医学科の入試は、一般入試しかなかった。筆者が、大学受験をした1972年当時は戦後の高度経済成長が曲がり角に差し掛かっていたものの、依然として東大を出て官庁や大企業に就職するのがエリート街道であったので、筆者のような文系は勿論、理系の高偏差値受験生もみな東大を目指していたものである。また、昭和50年代半ばまでには、ほぼ各県1校の国公立大医学部が設置されることとなったため、国公立大学医学部も今ほど難関ではなかったのである。しかし、その後の我が国経済の低迷と緊縮国家財政から役人も大企業サラリーマンもそれまでの「うまみ」が削られ、魅力が薄らいできたため、理系の高偏差値受験生は、こぞって東大より医学部を目指すようになってきた。

 その結果、現在では、国公立大学医学部医学科の一般入試に合格するのは至難のこととなっており、東京や大阪の超高偏差値受験生たちが、全国を股にかけて地方国公立大医学部の受験に赴くのである。逆に言えば、学力以外のカネ・コネが入ることなく、公平、公正に入試がなされている証拠であるともいえよう。

  ところがである。いつの頃からか国公立大学医学部医学科の入試に推薦入試が導入され、その上数年前からは、地方における医師不足の解消策と称して、地域枠制度なるものまで導入されることとなった。聞こえは良い。「一発の学力試験では測れない総合的能力を見る」とか、「卒業後地元にとどまって地域医療に貢献してくれる者を優先的に確保する」とか。しかし、本当のところは、コネ入学を制度的に認めたのではないかというのが、筆者の勘繰りである。医師の世界は、外からは分からないが、非常に狭い社会らしい。逆に言えば、コネ、コネ社会なのである。医師になってからは仕方のないことだが、せめて税金で医師を養成する機関である国公立大学医学部医学科の入試くらいは公平・公正であって欲しい。筆者が、推薦入試と地域枠制度の廃止を願う所以である。

 なお、国公立大学医学部医学科の入試にカネは関係ないと思いたい(賄賂罪が適用になる)が、本当のところは分からない。

  ということで、国公立大学医学部医学科に一般入試で合格するためには、絶対的にアタマが必要である。田舎の国公立医学部でさえ、センター試験で5教科7科目で最低でも総合85パーセント以上、できれば9割以上欲しいところだ(ちなみに、全国でも最低ランクの香川大学医学部医学科の場合総合85パーセント以上)。

 センター総合9割以上とるには何が必要であろうか。まず、国語と社会はどうしても点が伸びにくいので、これらの不足分をカバーするには、数学2科目と理科のうち少なくとも1科目は満点、理科のもう1科目と英語は95パーセント以上とることを目指さなければならない。また、非常に時間制限の厳しいセンター試験本番で総合9割以上とるためには、普段から100パーセントではなく120パーセントとれるように力をつけておかねばならない。さもないと、この試験で決まるという極度の緊張状態の中では誰でも100パーセントの力は出ないものなのである。

 センター総合85パーセント以上とれなかったけれど2次で逆転する?絶対ないとは言わないが、まず無理。わずか定員60~70人のイスを争っているに、その程度の能力で、精緻な解答能力をもったライバル達をどうやって逆転するというのか。

 

以上、筆者が医学部受験の提要と考えるところを述べたが、結局のところ、多くの正直な貧乏人にとっては、「カネなしコネなし勉強しかなし」なのである

 自分の子供が医学部を目指すというなら、親自身にも覚悟が必要であるし、国公立大学医学部を目指すならアタマが必要なのである。鳶が鷹を生むことはないのである。

2019.2.11