国公立大学医学部入試の

   地元優先枠制度は憲法違反では?

  全国47都道府県には防衛医科大学・自治医科大も含めて岩手県以外各県最低1校の国公立大学医学部医学科が設置されているが、地方医大の多くに、10年程前から入学試験の合否判定に地元の高校出身者(多くは大学所在県出身者。大学によっては、近県出身者を含むケースもある。)用の優先枠が設けられるようになった。多くの場合、各大学合格定員90名~100名程度のうち1020名程度が地元の高校出身者のための優先枠となっているのであるが、筆者はこの制度は憲法上おおいに疑義があると思っている。税金で医師を養成するための施設である国公立大学医学部医学科の入試の合否判定は、何より公平なものでなければならないのに、どういうわけか出身高校を理由とした差別がまかり通っているからである。

 一応のもっともらしい理由はある。それは地方における医師不足である。この問題は昔からあったのだが、それでも地方の総合病院は大学医局からの医師の派遣のおかげで何とかやりくりしていた。ところが、特に医大卒業後2年間の臨床研修の制度が法律上義務化された2004年以降は、同時に研修先を研修医が自由に選択できるようになったことから、以前ならほぼ全員が卒業と同時にその大学の医局に就職していたことで医師数の需給に余裕のあった大学付属病院自体が医師不足に陥り、その対策のため大学医局は関連病院から医師を引き上げるようになり、その結果、地方の総合病院は深刻な医師不足に陥ってしまった。

 ところで、毎年全国公立大学医学部医学科に5,000名以上が合格していき、それに対応した新人医師が誕生していくのに、どうして地方の医大付属病院が医師不足になるのか不思議に思うかも知れない。実は、国公立大学医学部医学科は、東京よりも地方へいくほど人口に逆比例して偏在しているのである。例えば、人口が1,300万人超の東京都に国立大医学部は東大と東京医科歯科大の2校しかないが、人口がわずか100万人足らずの香川県にも1校(香川大医学部)あるし、人口最少(60万人足らず)の鳥取県にも1校(鳥取大医学部)ある。同様に、人口の少ない他県にも防衛・自治医を含め岩手県以外各県1校の国公立大学医学部があるのである。人口比で考えれば、本来なら東京に20校以上の国公立大学医学部医学科があってしかるべきなのである。しかし、実際はわずか2校である。そうなるとどうなるか。東京在住の国公立大学医学部医学科を志望する高偏差値の大勢の受験生は、合格を求めてどっと地方医大へ走るのである。その結果、純粋に学力だけを合否判定基準とする限り、地方医大の入試合格者のうちに地元出身者はわずかしかいなくなってしまい、そして6年後、東京出身の学生の多くはそれまでの大学医局就職のたがが外れたため大学卒業と同時に東京へ帰ってしまい、地元にはほとんど残らなくなってしまったのである。

 このような状況から、地方医大卒業者をその大学の地元病院にとどめる方法として生み出されたのが、地方医大入試における地元出身者用の優先枠なのである。

 しかし、筆者は、いかに地方の医師不足が深刻であるからといって、入試の合否判定において地元出身者を優先するというのは、やってはならない禁じ手であったと思う。親に金があろうがなかろうが、優秀な生徒は公平な入試を突破することで国立大学へ進み立身出世をめざすことができるというのが明治時代以来の我が国が世界に誇ってきた教育制度であったはずである。しかるに、その典型である国公立大学医学部医学科の入試において、出身校の所在地という本人には何も責任のないことを理由に、合否において差別をするというのは、医師を地元に引き留める必要性がいくらあるとしても、法の下の平等を定める日本国憲法第14条に違反すると言わざるを得ないのである。

 では、地方における医師不足はどうするのかと言われるかも知れないが、それは給付奨学金の充実を含めた経済的な手法しかないと思う。一方で無駄な公共工事に莫大な税金を平気で使っていながら、医大卒業生を地元に引き留めるにはわずかばかりの奨学金しか使おうとしないのがケチくさいのである。受験生を入試で差別することで地方医大の卒業生を地元にとどめようというのは、とんでもないご都合主義で本末転倒の政策なのである。

 入試結果の本人への開示が行われるようになった現在において、惜しくも不合格とされた地元外の受験生から、この制度の合憲性を問う訴訟があってもよいと思うのだが、いまだにその例を寡聞にして聞かないのは不思議な気がするのだが。

  そもそも筆者は、高校間の学力格差が大きい現実があるのに、税金で運営している国公立大学の入試に高校時代の定期試験の成績を前提とする推薦入試制度があること自体が公明正大であるべき入試を不明朗にしているため反対である(はっきり言って、K1高の内申評価5などというのは、東京の進学高の内申評価3にも達しないのは明らかである。)が、ましてや医学部の推薦入試には何ともいえないうさんくささを感じている。その理由は、推薦入試というそもそも合格基準の不明朗な制度の上に、違憲の疑いの強いこの地元優先枠の制度が相まって運用されているからである。 ひょっとしたら、私立医大によくあるように、受験する前から特定の関係者の子弟を合格させる密約が出来上がっているのではないかと勘ぐってしまうのである。

 自塾講師の学歴を誇れないから塾の宣伝に国公立大医学部合格を誇っている怪しい塾が多いが、国公立大医学部合格といっても内容はピンキリであって、特に地方医大の推薦入試で合格したのであれば地元優先枠を利用した○○な合格であるかも知れないのだから、塾の宣伝文句にはくれぐれもご用心なのである。それでも、自分自身まともな大学受験の経験もなくお金だけは持っている無知な親は、そういう怪しい塾の宣伝文句にまんまと引っかかるのだが。

ちなみに、我が家の医学部3人娘は、すべて明朗会計そのものの一般入試で合格を勝ち取っている。

地域枠 怪しき者が 医者になり

2015.12.7