大学入試に英語4技能は本当に必要か

        ー民間試験導入延期に思うー

  20年度からの大学入試への英語の民間試験結果の導入が延期になった。1年かけて再検討し24年度からの導入を目指すという。筆者は、大学入試に民間試験の結果を使うことには反対であることは勿論のこと、そもそも大学入試において英語の4技能(読む、書く、聞く、話す)を重視するという発想自体を疑問に思っているので、以下に筆者の考えを記してみたい。

  そもそも大学とは何をするところなのか、世の中の多くの人は誤解しているのである。実際、多くの人は、大学は学生が最終的に社会に出ていくための準備をするところ(大卒の学歴を得るところ)程度に思っているし、実態を見ればその通りなのだが、本当は違うのである。教育基本法第7条には、大学の目的がちゃんと書いてある。

   第七条 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。

   2 大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。

   簡単にいえば、「真理の探究とそのための教育研究」ということになろう。各大学は、この目的を達成するために教育研究を行っている(ことになっている)のだが、英語に関していえば、この目的のどこから4技能といわれるものが出てくるのだろうか。

 教育研究のためには外国の先進的な学術文献の研究が必要不可欠だから、英語を読む・書くは絶対的に必要だろうが、聞く・話すはできないよりはできた方がいい程度のことなのである。実際、現在の1000以上ある大学の教員の内、何人がまともに英語が話せるだろうか、怪しいものである。日常会話程度ではなく、学術研究の上で必要な英語が不自由なく話せる教員などまずほとんどいないだろう。何のことはない。「真理の探究とそのための教育研究」ができる限り、それで足りるのである(かつてノーベル賞受賞者の益川教授が私は英語が全くできませんと言われたことがある。おそらくは謙遜されているのだろうが、しかし、英会話ができなければノーベル賞が取れないということはないのは確かだろう)。にもかかわらず、大学入試に限って、英語の4技能を求めるのが筋違いなのである。

  大学入試の英語に民間試験業者が実施する試験の結果を反映させようという施策は、英語の4技能のうち、特に話すを試験しているのが現状では民間試験業者だけであることに目を付け、大学入試の英語に4技能を持ち込むことによって、民間試験業者を儲けさせ、文科省の役人はそこに天下りして甘い汁を吸い、政治家がこれらから献金をもらって潤うという、受験生を寄ってたかって食い物にする「三方一万両得の悪巧み」なのである。文科大臣の「身の丈」発言もあって、とりあえず20年度からの導入は延期になったが、そのうち世間の批判のほとぼりが冷めれば、またぞろ形を変えて頭をもたげてくるのだろう。要注意である。

  ところで、中高生に英語を教えている筆者が言うのもなんだが、日本で生活していくのに英語、特に英会話が必要な人などどれだけいるだろう。仕事上どうしても英会話ができることが必要な人はいるかも知れないが、せいぜい1000人に1人でないか。少し考えればわかることだが、英会話などできなくても日本での日常生活に何の不自由もないのである。それなのに、どうして文系にせよ理系にせよほとんどの大学入試に英語が必須の受験科目になっているのだろうか。筆者が思うに、それは、大学の目的である「真理の探究とそのための教育研究」のためには、論理的思考力が何より必要であり、この論理的思考力の有無を測るのには国語だけでなく、英語という外国語を通して測ることが非常に役に立つからである。

  試しに、大学受験生に英語の長文を和訳させてみると、その生徒の論理的思考力の程度がすぐにわかる。日本語としてとうてい成り立ち得ないような和訳もどきをして平気でいる生徒をよく見かける。英語の文の構造を軽視して単語ばかり追いかけ、あとは「フィーリング」とやらで適当に和訳もどきをするのである。論理的思考力が欠けているのである。

 このような訳の分からない和訳もどきをする生徒は、大体が筆者のいう過去問丸暗記のエセ塾で「学んで」きた生徒である。中間・期末試験対策と称する過去問丸暗記と酒池肉林の預言者からの霊験あらたかな預言(予想問題)に頼っているうちに、本来持ち合わせているはずの僅かな論理的思考力さえも奪われてしまった可哀想な生徒たちなのである。

 筆者としては、どんな生徒も、程度の差はあるにせよ、それなりに論理的思考力を持ち合わせていると考えているので、過去問丸暗記のエセ塾の逆を行き、英文の11文を論理的に解釈して正しく理解できるよう、日々生徒の論理的思考力の養成に努めている。

 2019.11.3